wasted love

 

浅い角度に焦点を合わせている、そこにあるのは空間だけで見るべきものはないように思えた。緩く浅く呼吸するあなたの上下する胸に耳を寄せる。心臓の音がうるさくて肺胞の伸縮する音は聞こえなかった。少し開いた口に唇をつけて、じゅっと空気を吸い上げる。肺から肺に最短距離で収めて、そうやって俺のなかがあなたに置き換わるのを期待した。死んでゆく細胞が生まれた細胞に語り継いで新陳代謝をする、覚えたり忘れたりするのは脳ではなくて細胞の仕事。初めてキスをしたように感じたのは伝言ゲームの過程で生じた齟齬のせいだ。圧縮機のように吸い出し続けてみたいと思う、根こそぎ奪ったからくったりして動かない。知らない空気を吸うくらいなら俺の血液を飲んでよ。ほとんど残っていない口紅を舐めとってからまた唇をつけて次は息を送り込む。俺の血液を濾して集めたんだよ、どんな味がするの、苦しいなら光合成してみせて。全部口移しであげる、なんでもあげるから一回空になってよ。丁寧に潰してあげる、畳んであげるから。

あなたはこほこほと咳をして俺の血液を押し出してしまう。まだここを見てくれない。愛していると囁いたら頷くから何度でも試みる。手を繋いで没頭する行為に昼も夜も掻き消えた、次はできるといつだって本気だから続けつづける。過多も余剰も無駄もない。高めた濃度でその他が薄くなり始める。最初の呼吸で壊れた肺を開いて見せた日から総ての細胞が望み続けている。奪って与えてやまないさめない。

この密室でひと知れず俺たちは完成に到達する。