マーブルブルーム

美しいほうの夢に触れられている。夢の前では肉体は些細なこと、衣服はもっと微々たること。それでも美しいほうの夢にも肉体があって、伸びてきたその腕が私の胸板を撫でるように滑った。肩や鎖骨といった硬いものを避けて乳房に触れる。当然のこと、皮膜が…

wasted love

浅い角度に焦点を合わせている、そこにあるのは空間だけで見るべきものはないように思えた。緩く浅く呼吸するあなたの上下する胸に耳を寄せる。心臓の音がうるさくて肺胞の伸縮する音は聞こえなかった。少し開いた口に唇をつけて、じゅっと空気を吸い上げる…

逃げ砂糖水

睦子が文庫本を繰る音が清潔に響く部屋にて、私はといえばペディキュアが乾かないので暇だった。動くとすぐに傷をつけてしまうため、爪先まで細心の注意を払ったまま体育座りをするほかない。表紙を覗こうと彼女の手元に目線を向けたけれど、長い指で覆われ…

習作

君はどうして僕の夢から這い出てきたの、夢は夢のままでって思っていたのにそんな風に登場されたら敵わない。それなら実態を伴って見せて、ガラスの煌めき、遠くの声が蝉の求愛、君は誰より素敵なにんげん、アンドロイドみたいでとっても愛しい。何度も何度…

君の眼

君が何を見ているか僕はついぞ最後まで理解することができなかった。途中からは諦めていたということもあるし、君は理解を求めてはいなかった、少なくとも僕にはそんな風に見えた。 その眼は気儘に情念を燃やし、ぬらぬらと炎を揺らし続けた。鎮火したらいい…

スウィング

別にどうってことないの、ののこちゃんはブランコを蹴る。僕はピアノを弾き続ける。左手がひっきりなしに2オクターブ違いの音を乱打する曲だったが、僕の親指と小指は正確に位置を捉え続けた。 「ロマン派がいい」 「ののこちゃんはそればかり」 「きりくん…

青成り

繰り返す夏にどんな意味があるのかと問われたところで、私は困るばかりなので、質問の意図を問いなおす。質問で返されてたじろいでいる葉子が滑稽だった。 「睦子は暑さに弱い」 「ああ、滅びればいいと思います」 「でも夏は好きなんでしょ」 なつ、ナツ、…

鏡よ鏡

少女はいつも眠るときは、丸くなることにしているのだけれど、でもなんだってどうして丸くなるのかしらね。胎内回帰願望だなんてまさか、今更そんなのってださくなーいって笑っているのは、否めないなって思ってるからなんでしょうね。 ふふ、可愛いね。あた…

続・四畳半

彼女の上をいくつかの夏と何人かの男が通り過ぎて行って、季節は秋で、つまり春は終わって、だからこうして彼女は顔を覆ってうなだれているのだろう。 眼前に並ぶ10個の爪は粒が揃っていて、それはピアノの黒鍵を思い出させた。飲食店で働く彼女は爪を短く整…

四畳半ネットワーク

青年がその四畳半で考えていることといえば、大体総てのことだと言えるだろう。 切れかけている蛍光灯を変えるまでの手間であるとか、聞いたこともない国の通貨の流通についてであるとか、肉体を保持したままイデア界に行く手段であるとか、カブトムシが完全…

黒い踊り場/白い団地

突き抜ける青空に旋毛からまっすぐ射抜かれる思いでいると、一面に蝉の声が散らばっているように聴こえたがそれは気のせいだ。 まだ入道雲も立たない6月の末、出来損ないの夏が組み上がってゆくのを眺めていた。階段の踊り場には大きな窓がついていて、たっ…

その一幕

「ネジに、毛皮に、スタンドランプ……は違くて、」 「ミルクは」 「腐ったミルク?」 「いや、砂が落ちてる」 「砂が落ちてるミルク」 「透かし模様の便箋、た、た、たた、端末も入れよう」 「ホウ・レン・ソウ」 「ホウ・レン・ソウ」 「放射線・レントゲン…

習作

気が狂いそうな神様たちが今日もそこかしこどこまでもそうだ、張り巡らされたテグス、張り詰めきったピアノ線、首に巻き付き手首を縛る。足首にかなげた真綿が締まる、きゅんきゅんと死にたくなる神様、気が狂いそうな神様たちのご都合に合わせましょう、料…

習作

山脈の手首にさくりと刃物をいれて、美しい水は無色透明、そういったものを掬って歩くのだわ。幼少の彼は少し舌が肥えすぎている。このまま彼の足元からぬかるみはじめてもよかった、何度も死ぬのだ、一度くらいそうしてもよかった。薬指の関節がカタカタと…

存分に育てば

そこにあるのは美しい肉、肉を束ねた赤い花。苦悶に歪んだ血が沸いて、捻れた頭で笑っている。 あなたほど残虐な子どもには初めて触りました。 花瓶を高くかざして、光が射す、脳まで刺す。そのまま打ち付けて、乱暴に歌い流す。 あなたほど残虐な感情が初め…

16:44

芽吹く肉が夢見る湿度の末路、口を開けば入る水。塩分は違うところにあります、搾り取りつぐみきる。鏡の縁が光るだけ、光るだけです。 天使が三匹もつれあってるね、そうでしょママ。悪魔が三頭抱き合ってるね、違うのパパ。 お嬢様、ランデヴーはいつにな…

路地裏でキスがしたい

キスがしたいな、と彼女は思った。饒舌に語るその舌の動き、わたしの口のなかで起きてもおかしくないし、唇は綺麗なんだもん。重ねたくなったって不自然じゃないよね。とても自然な衝動、ただキスがしたいってそれだけ。酔ってるし、おかしくない。店を出た…

Twitterで書いたもの

Twitterの診断メーカーで遊んだものがいくつか出てきたので、まだマシなものをいくつか。 『「仕方なく、指を握り締める」キーワードは「最後」』です。 http://t.co/gCQevBx 「そのかわりに」、そう言ってすっと差し出された小指はあんまりに社交辞令じみて…

収まらない妄想が現実をいつも嘲笑う

数えきれる程度の哀しみで 空をトンだ女の子の話だよ 追いきれる程度の変拍子で 脳からぶら下がる藤の花よ 妄想で惨殺した神様の死体の肢体の舌の下に隠されていたから気付かなかったのよ人間たち。 具現化されるほどに逞しく育った健やかなる妄想で惨殺され…

手紙

ここに重なる色彩の計画にもなにも感じなくなってきて、「落下まで3秒だ」本当は宙ぶらりんで静止している。わたしは嘘を重ねた、それは僅かに色付いていた。 どうも空が不穏なのは、季節の所為だと笑って切り落とした。そこには重大な、見過ごしてはいけな…

遠くまで投げられないの

このように世界は定められ、右向け右で動いています。哀しくも求め合っては遠くに手を伸ばし、掴めない星屑を見るも無惨に砕いては「ひとつも残りはしないのよ」意味ありげな視線はイミテーションだからちゃんちゃらおかしいね。そう女の子が女の子を笑う無…

長期記憶に入ってよ

神様が跪いて僕の靴底を舐めた、ベルベットの加減は良好、豊かに落ちたら一気に冷める、シルエットの具合は濃厚、神様がわなないてシルクが濡れた、僕は揺れた。落ちたボタンを拾いながら手を掛けて君に行き着く、その虚ろにチェックメイト、手間を掛けた君…

いつかのスウィープ

死ねばいいのにと羊に囁いたはずが、なぜに貴様が死んでしまうのか理解に苦しむような猿に過ぎぬ私ですが、それでも貴様の亡骸は美しく、その美しさだけは充分にわかるのです。 サーモグラフィーに引いた赤について思うことはありませんが、それが冷め行く青…

百舌の早贄なんだもん!

「世界が終息しない!」 ! あんまりに書きなぐるものが、軒並み散文的であることには、たぶん整理整頓できてないんだよ。その言葉【散文】から寸分のぶれもなく、わたしは散らかった文章を書く。それにはストーリーも言葉遊びもなんにもなくて、わたしの頭…

枕元には無菌の殺意を

やあ、あいしてるのひとことのために随分と遠回りをしてきたようだね、君。 ここまでくるのは随分とくたびれたろう、休んでおゆき。ここには君の望むそれ【愛】が充分にあるよ。 君が望むならアレ【依存】も差し上げようか。依存は信頼よりもだいぶ簡単で手…

常にそこには音楽が、底に落ちれば音楽が。

口を開けば君はテクノミュージック!足元を見ればシューゲイズ!常にそこには音楽が、底に落ちれば音楽が。 ダサい四つ打ち踏み鳴らしてホラ!喝采を仰ぐ。噛ませファズ!オーヴァーにドライヴした歪な日常に観客を、歓声を。 エイトビートが加速してアラ?…

welcome to asylum.

逆さにしてしまったらいけないことには、つまり水が詰め込まれているのであると哲学者は言う。僕は笑った、笑ってみた。左目がうまく動かないことには、つまり取り繕うのが下手なのだと知人が言う。そうかもしれなかった。それだけの話で、取り繕いきれない…

習作

ギュウギュウ押し付ける愛に目を見張る、増える会話に減る会話、月日に怯えるのよ、ふたり夢も見ずに、空を飛ぶわ、ねえ愛してあげる、綺麗な言葉ね、打算に砕けるのよ、欲、欲、欲、サイコパスが狙う斜め35度で撃ち抜いて殺して頂戴、丁重に殺生、素敵な話…

ラ、ラ、シ、ラ♪

羅列羅列支配羅列 ラ、ラ、シ、ラ♪ : 手首を切ったら血が出るなんてナンテ蠱惑的なプログラミング!血が赤いだなんてナンテ神様は正しいんだ!バグを発見「デリートしますか」突き進めウイルス!世界を壊すなら今、世界を壊すのは君、それはロックンロール・…

習作

よりどりみどり、御好きな刃物を!「どこを切ったら楽になれるの?」。人混み、雑踏、電車に乗るのも怖いだなんて!「いくら吐いたら楽になれるの?」。空は落ちてゆく、線路が引きずり下ろしたから、ずるりと臓物のテクスチュア。そんな日溜まり、僕らのサ…