prose

枕元には無菌の殺意を

やあ、あいしてるのひとことのために随分と遠回りをしてきたようだね、君。 ここまでくるのは随分とくたびれたろう、休んでおゆき。ここには君の望むそれ【愛】が充分にあるよ。 君が望むならアレ【依存】も差し上げようか。依存は信頼よりもだいぶ簡単で手…

晩夏ガール

見上げた夏空は腹が立つほど気持ちが良い。入道雲に穴をあけようと思って銃を撃つまねをする。バーン。びくともしない入道雲は、そうね、夏だからなのね。夏は嫌い。暑くて暑くて気持ち悪くて、頭うだっちゃってしにたくなるから。ひとり部屋にこもってしぬ…

パペット

掻き抱いて、掴み取ったシーツにチルアウト 僕らが生きた世界はゆがんでゆく (言うまでもないことだね) 依存性の強い君はさながらアルコール 甲斐性はある僕は君をシーツでくるむ。くるんでゆく 君というアルコールで、消毒 (言われてみれば当たり前だね…

焦点

その日、彼女はついに珈琲に口を付けなかった 僕は滑らかな白のマグに付く口紅が好きだ、気づかれぬようそっとそれを親指で拭う仕草含め。 今日はそれが見られないのかと残念な気持ちをビー玉のように持て余していた 「あなたが好きなのは、」 彼女は僕に口…

彼女は夜を迷わず選んだ、夏至も通り越して短くなる一方の夜を。 いやそれはわからないはなしだ、日本に彼女がいるとは限らない。早計だったね謝る。 彼女の名前は涙と言う、よく泣くからとか在り来たりな理由でそうなった。つまりこれはいわゆる通称だ。 涙…

かぐや

赤ん坊を拾ったの、女子。或る晴れた日の散歩道で。 美人の面影はないけれど愛嬌のあるまるい一重瞼の瞳で、赤ん坊は私を見ていた。赤いセーターを着て、見上げてくるその子を抱き上げると、彼女は嬉しげに目をぴかぴかさせて手足をじたばたと動かしたの。生…

arabesque

「リリイを聴かないと僕は眠れないんだ」男はそう言ってiPodを取り出した「これを聴いてるときだけ、夜に愛されてる気がする」。映画は好きじゃないんだけどCDはいいよなーと呟いてから、寝る前の一服。 「わたしは、映画も好きだけど」 「意味わかんないじ…

スロウカプセル(改)

友達が笑いながら手を振って落ちる。落ちてきている。 「あ、ばか」 僕はそれを冷やかに見つめる。先ほど近くのコンビニで購入したラッキーサイダーを飲みながら。フルーツの味が濃くて、炭酸が弱い。おまけに「あ、ばか」と言った所為でむせた。アンラッキ…

東京キャラメル喫茶

池袋、満天。それはあたしのあのこが大好きな、束の間の休息の場の名前。あたしも二回だけ連れて行ってもらったことがある、二回だけ。 プラネッタリユム。 あたしたちは気狂いのような熱視線をもってドームを見つめていた、いつも(あたしが知りうる範疇で…

天使の詐欺師

――泣かないでいいよ 街は荒野で行くしかないよ行くしかないよ 僕の大好きなあの子はとんだ天使でとんだ詐欺師だった。膣がふたつもあってさ、こっちは僕ので、あっちは本命くんのらしい。彼って誰だよって問い詰めたら渋々「……弟。」だってさ、本命は弟くん…

落ちるは、光の帯

空が落ちてきた、その日は唐突で。 明日なんかすっぽかして明後日がきたみたいだったよ ひかりは紫から紫へ輪廻転生カラフルで、わたしは虹は何色なのか数えようとして眩暈に教われ救急車に運ばれた。 隊員達もみんなくらくらしていて、ほら、なんせ空が落ち…

瞬きより曖昧な

くすんだ快晴の夜空では珍しく星が見えたよく見えたんだ アタシは山手線を降りる地味に風俗がはびこる汚らしい街、でもそんなに悪い街じゃない裏道にさえ行かなければ暗いだけでどうってことないからわたしは堂々闊歩する「お前みたいな女には住ませたくない…

スロウカプセル

友達が笑いながら手を振って落ちた。落ちてきた。 「あ、ばか」 僕はそれを冷やかに見つめる。彼女は「えええ」と目を丸くしながら落下してくる。ここで抱きとめたら流れで付き合うことになるような気がした。だから僕はあえて真逆の行動をとる、なぜか。 「…

何処にでもいる男女のはなし

昔何度か寝た男の部屋では束の間の自由が与えられていて、私は失礼にならない範囲で彼のコンパクト・ディスクの山を漁ったものだった。今考えると彼の部屋は結構な宝庫で、当時の私が適当に扱ったいちまいはとうの昔に絶版になったものだったりした。こんな…

虐待

あなたの柔らかな舌で誘い出して欲しいのはわたしの縮こまった舌なんかではなく、もっと汚いどろどろした粘度強の沈殿した憎しみ。あなたの柔らかな舌で傷口をこじ開けて欲しい、ふちをなぞって癒して欲しいなんて今更思いやしないよ思いやしないただ漠然と…

レディガール

アタシの恋はどうしてかいつも上手く行かなくて、というか可愛げがない。あーあ、ひとつかふたつ、みつよつ上の人が良いなあ、或いはダンディなおじさま。ななつ上とか絶妙に世代が合わないし、なんだか怖い。もっと恋煩いで身を焦がすような恋愛がしたいの…

繰り返す一度目の夜

或る男の十代最後の日、わたしは薬の量を倍にされ、より強いものに変えられた。それはわたしをほっとさせもしたし、絶望させもした。まあ結局ある種の開き直りでわたしは笑顔でハルシオンを噛み砕く。苦い、苦いや。眠気が覚めた。 居てもいいよと言われて泣…

吉祥寺サイケデリック

シックなキッスとポップなキック、どちらが欲しい?と僕は問う。 君は「不埒なエッチ」と笑ってから 「破廉恥フレンチキッスにしよう」なんて、夕飯を決めるようなスキップのタッチで朝方のひとこまを描く。 僕はふしだらみだらな女は嫌いなので、ついでにセ…

青眩暈

「またね」と受話器を置いた6:00am、暑さゆえの吐気と長電話特有の心地よい倦怠感の中で靄がかった思考。 さて何をしてたんだっけなとごろごろしながら考えて、枕代わりに敷いていたパジャマの存在を思い出す。そうでした、 4時間以上前のわたしはお風呂には…

i want to be girllllllll

やきもちという言葉の存在を半分くらい忘れ、嫉妬と漢字で書けるようになったとき、私は自分が成長しつつあることを自覚した。 いけない、このままでは少女でいられなくなってしまうわ! 私は慌ててアリスシリーズを全部読み直した。モモも読んだし、星の王…

三拍子の思い出

あたしは十六のとき、ぢゅんに教わって初めて三拍子というものを知りました。イディオットという題の曲ばかり聞いているあたしに同情したぢゅんはあたしにワルツを聞かせてくれて、あたしはその新しい感覚に陶酔。 なんせ、聞きながら歩こうとするとうまく歩…

歩行、思考、邂逅

街を歩いていて不意に鼻腔に流れ込んできた空気の匂いが、何の匂いなのか思い出せなかった。消毒液の匂いのような気がするけれど、よく研ぎ澄ませてみれば珈琲の匂いのような気もする。 まあ、なんでもいいし、どうでもいいんだ。 とりあえずその冴えない路…

供述

過剰な感情の矯正を強制される(駄洒落じゃないのよお洒落なの)日々に、駄々捏ねながらも、まあそこそこうまいことやってきたわけ。おわかり? わからないでしょうね、あなたみたいな人にはね。いいえ別に特殊ぶりたいわけじゃないのよ、でも切手に感じるエ…

精進と肉退

私いまから退屈な話を二三並べてみる覚悟だけど、あなたの覚悟はいかがかしら、まあいいわ所詮独白のようなものであるにすぎないからね、本当のところここにあなたは必要ないのかもしれない、でも一人芝居にも裏方さんはいるでしょう、それと同じで、だから…

甘い毒

「つぎ嘘吐いたらあたし蜂蜜のむよ、のんであんたにキスするよ」 先日、彼女は髪を黒に戻した。ふわふわのパーマも甘いブラウンも捨てて、ストレートの黒髪ボブ。そして、中身も大分かわった。それもとびきりたちが悪い方に転んでしまったようで、隙あらばそ…

嗅覚と記憶が手を繋ぐ夕暮れ

惰眠からの脱却、瞼を開けたらもう外が薄暗くなっていて驚いた。ぬるま湯のようになったシーツから這い出て私は一度脱いだブラウスに腕を通す。なんだか性的な夢を見たような気がするのだけれど、記憶が定かでない。先日の余韻がちらついたのかもしれない。…

彼の真空管について

ののこちゃんがピアノを弾いてはいるが、きりくんは外の雨に気をとられていた。少しばかりずれている彼は、でもののこちゃんのピアノを知覚する音感は持っている。 「きりくんリクエストのショパンじゃないの」 「本当はドビュッシーのほうが好きなんだ」 「…

「カーペットの傷みが」

カーペットの傷みが急に気になって気になってどうしようもなくなって、突発的に捨ててしまった。剥き出しのフローリングはなぜかざらざらとしていて、このあとの雑巾がけの手間を考えるとうんざりしてしにたくなったり、した。 やれやれ。 雑巾をかけてもざ…

「人間誰しも」

人間誰しも得意技ってものがあると思う。 英語が達者だとか漢検準一級持ちだとか、綺麗な姿勢で歩くことができるとか、おいしそうに林檎を齧るなんてのもそう。 林檎選びからはじまって、その磨き方、歯形の残し方、しゃくしゃくという音の立て方、匂いを届…

五本指と五線譜

泣きながらあたしは五線譜を探し求めていた。 探し求める、なんていうと五線譜中毒か何かみたいだが、本当はその逆。 あたしは五線譜が嫌いだ、どうしようもなく嫌いなのだ。 五線譜を見るといやな音を思い出して眩暈がする。 ずっと理由がわからなくてくら…