何処にでもいる男女のはなし


昔何度か寝た男の部屋では束の間の自由が与えられていて、私は失礼にならない範囲で彼のコンパクト・ディスクの山を漁ったものだった。今考えると彼の部屋は結構な宝庫で、当時の私が適当に扱ったいちまいはとうの昔に絶版になったものだったりした。こんなことなら盗んでしまえばよかった、合鍵も貰っておけばよかった(そして返さない)。


アルバムのタイトルも知らなかったけれど、適当に選んで流す。そこからふたりの共有しているようなしていないような、つまらない時間が始まる。すぐに致すこともあれば、最後までぐだぐだと漫画を読んで寝転がって終わるときもあった。
私は気付いたらある一枚が気に入ってそればかりかけるようになっていて、彼は酷く不躾な目でじっとりと体を眺めてくるものだった「そんなにセックスしたいのかよ」。最近まで知らなかったのだけれど、私が好んでかけていた一枚は「erotic」というタイトルだったらしい。


すぐに舌を入れてきたがるようなろくでもない男だった。
誰かの歌でこんな一節がある、「君は足を絡ませ ろくでなしと言ったっけ」。わたしはまさしくその「君」で、いつも「ろくでなし」「したくない」ばかりをいう退屈な女だった。
ろくでなしとあばずれ。それなりにお似合いだ、と自嘲気味に何度も笑った。
少しは泣いた。


男は結局なにもしない私に嫌気が差したらしい、あっというまにいなくなった。
私も心はまず求めない男に嫌気が差していたし、あっというまに吹っ切れた。


ふたりの体には心には「浅ましさ」というこびりついてどうしようもない汚れが残って、でもそれを汚れと見なすか否かは結局てんでんに任されていて、そのあとの細かい推移は到底推し量れるようなものではない。


ちなみに男は役者になった。売れない役者、いまだに小劇場の片隅で演技をしながらコンビニで働いているらしい。私は役者志望のち画家志望になりまた役者志望になったが、彼と別れて数年後に死んでしまったので将来という概念を具体的な形で持っていない。