2014-01-01から1年間の記事一覧

続・四畳半

彼女の上をいくつかの夏と何人かの男が通り過ぎて行って、季節は秋で、つまり春は終わって、だからこうして彼女は顔を覆ってうなだれているのだろう。 眼前に並ぶ10個の爪は粒が揃っていて、それはピアノの黒鍵を思い出させた。飲食店で働く彼女は爪を短く整…

四畳半ネットワーク

青年がその四畳半で考えていることといえば、大体総てのことだと言えるだろう。 切れかけている蛍光灯を変えるまでの手間であるとか、聞いたこともない国の通貨の流通についてであるとか、肉体を保持したままイデア界に行く手段であるとか、カブトムシが完全…

黒い踊り場/白い団地

突き抜ける青空に旋毛からまっすぐ射抜かれる思いでいると、一面に蝉の声が散らばっているように聴こえたがそれは気のせいだ。 まだ入道雲も立たない6月の末、出来損ないの夏が組み上がってゆくのを眺めていた。階段の踊り場には大きな窓がついていて、たっ…