繰り返す一度目の夜


或る男の十代最後の日、わたしは薬の量を倍にされ、より強いものに変えられた。それはわたしをほっとさせもしたし、絶望させもした。まあ結局ある種の開き直りでわたしは笑顔でハルシオンを噛み砕く。苦い、苦いや。眠気が覚めた。


居てもいいよと言われて泣いた。
居なくなったのは君だろと言われて泣いた。
わたしを繋ぎ止めておけなくなったのはあなたなのに。
そんな責任転嫁で自分を落ち着かせようとする情けなさに泣いた。


パキシルを噛み砕く。宙に浮いたような熱で自分はひとりではないと思った。独りだ。わたしはわたしの独裁者。神はわたしの中にしか居ないんだろ、わたしのこと全部知ってるんだろ。


逃げられないと知ってまた泣いた。
恐怖のあまり子どものように泣いた。
それさえ自分が作り出した現象だというのに。
どうやらわたしは泣くしか能がないらしい。


レキソタンを噛み砕く。二十歳になった或る男に煙草をプレゼントしようとメールをしてみた(おめでとうなんて言わない)。成人したねとメールをしてみた(おめでとうなんて言わない)。彼はあっさりといらないと簡潔なメールを返し、わたしもまあいいかと受け流す。


その男が愛しくて泣いた。
その男が切なくて泣いた。
別の男にはもうメールは届かないことを思い出して泣いた。
自分の行く宛のなさに泣いた。
泣きすぎて顔が醜くて泣いた。
お風呂上りの顔が泣顔みたいで泣いた。


サイレースを噛み砕く。これが欲しいがために延々とカウンセリングを受けたのだ。あなたは自分を持っていないからそうも依存的になるのよ、と言われたのを舌先で苦味を感じながら思い出す。知ってるよ、わたしはからっぽだ、だから誰かで一杯にするのだ。


あーあ、誰か汚してくれないかな。
あーあ、誰もが怪我させて去ってゆく。


誰もわたしを一杯にしてくれないので泣いた。
わたしはわたしはからっぽなので、わたしの涙もあんまりしょっぱくなかった。


きっとそのうちわたしは透明になるな、とラムネ菓子のように噛み砕きながら泣いた。