東京キャラメル喫茶
池袋、満天。それはあたしのあのこが大好きな、束の間の休息の場の名前。あたしも二回だけ連れて行ってもらったことがある、二回だけ。
プラネッタリユム。
あたしたちは気狂いのような熱視線をもってドームを見つめていた、いつも(あたしが知りうる範疇で)いつも。
抑揚を忘れた解説者の声はほんの少しのだるけを帯びて響くから、あたしたちはキスをしたりするのだ。
目の前では幼稚園児が眠りかけていて、背徳的な惰性を感じる。あたしたちの唇はとうに水を求めていた。グロスで偽る唇に重なる乾いた唇、触れ合う粘膜にいったい何を見出すという、
あ、キャラメル。
とあのこは笑い出した。笑顔はエタノールのように揮発してしまいそうで、あたしは額を指で弾いてやった。
痛いじゃない、
にやつく口元は貼り付いたように正確無比な生真面目さがあって、先のキスを恥ずかしく思う。あたしは唾液を飲み込んで全てを忘れることに努めはじめていた。
ののこ、キャラメル売ってるよ。手作りの奴
数歩向こうであのこが手招き、あたしは為すすべもなくはしゃぐしかない。だってあのこが喜んでくれるから。
あたしは、ひとを喜ばせるのが好きで。
あのこよりもあのこの喜び方が好きで。
瞳に僅かな色を灯す、唇を甘く噛むようにして口角を持ち上げる、首を斜めにして前髪を滑らす。
控えめにしっかりと喜ぶさまの裏、純粋ゆえの見え隠れする高慢知己と押しつけがましさ。
喜びって汚いよ狂気哀しみをあたしは愛す
「アイス買ったよ、ひとくちあげる。手作りキャラメルとやらも買った」
あのこは両手が塞がっているのに幸せそうだ。
アイスが垂れてゆく、コーンの先から早くも溶けたアイスが滴っていた。
慌てるあのこをあたしは眺む。
プラネッタリユムにいこう、今からもう一度いこう。飽き飽きするよな解説もっかい聴こう。満天で、偽りの満天の星空を作り出す満天で、先よりも背徳と怠惰を愛でよう。