三拍子の思い出


あたしは十六のとき、ぢゅんに教わって初めて三拍子というものを知りました。イディオットという題の曲ばかり聞いているあたしに同情したぢゅんはあたしにワルツを聞かせてくれて、あたしはその新しい感覚に陶酔。
なんせ、聞きながら歩こうとするとうまく歩けないだ。
こんなに影響力があるのだもの これは新しいものを見せてくれる、そう確信して、あたしは三拍子にどっぷりとのめりこんでいった。
否、三拍子はあたしを引きずり込んでいった。


でも残念なことにぢゅんとあたしは道が違う人間に生まれてしまいました。こんな素敵なものを教えてくれるぢゅんは、さぞ素敵なものを知っているだろうから、ずっと一緒にいたかったのに。
あの子はアララギ派
あたしは明星派。
見事に対立する両者だったので上手くいかないのも当然。気付いたらぢゅんとは離れ離れ、遠いところにふたりは身を置いておりました。


どうして一緒にいるのに理由は要らないのに
離れ離れになるのには理由があるのでしょう


ぢゅんもあたしも、違うところでずっと考えた、考え抜きました。
あたしたちは一緒にダダイズムを愛でた。
写実派より印象派が好きだった。
共通点は山ほどあったのに なんで?なんでなんでなんで?


「あは わかっちゃったァ」


或る日ぢゅんはそういってけたけた笑いながら裸足で走っていったといいます。そのまま崖から落ちてあの子は死にました。
谷底には川が流れていたので遺体は見つからなかった。ふやけた遺体をみるぐらいならそれがいいやと軽薄なあたしは思う。
ただ、あの子の綺麗な髪を一房、刈っておけばよかったと後悔しただけ。


それでもあの子の忘れ物の三拍子、お気に入りだったドーナツ盤を崖から投げ入れてあげた。
あたしの大好きなワルツ。
流れてくドーナツ盤をみて、あたしは初めて泣きました。


あたしが愛したのは結局、ぢゅんだったのかそれとも三拍子なのか。
混乱してしまったことに愕然として、あたしはまた泣いたのでした。



(初めの1行がかきたかっただけなの)