充満


とても哀しいことばが思い浮かんだから、万年筆とスケッチブックに手を伸ばした。
柔らかくざらついた紙に万年筆でそっと触れて、しかし言葉はひじのあたりで止まったまま、文字にならない。まるで紙魚が食ったみたいに、インクが染みてゆくだけ(じわりじわり)。


毛細管現象 とか 昔習ったような気のする単語が脳裏を掠め、


ああ、いまいましいほど穏やかな作業だなって 唇歪めて笑ったわたし





に こっそりレンズを向けた君は、


「とても哀しい写真が取れたよ」と目を伏せて言った。


光に縁取られた長い睫毛がかすかに震えて、わたしはそれがなにより哀しかった。