鏡よ鏡


少女はいつも眠るときは、丸くなることにしているのだけれど、でもなんだってどうして丸くなるのかしらね。胎内回帰願望だなんてまさか、今更そんなのってださくなーいって笑っているのは、否めないなって思ってるからなんでしょうね。
ふふ、可愛いね。あたしカワイイネ。こんなに可愛い少女であるあたしが愛されてないのはどうしてだと思うって鏡に向かって尋ねてみるの。鏡よ鏡、カワイイカワイイ少女であるあたしをいちばん愛しているひとの姿を見せてって。そうしたらさあ、自分の顔が映るから、びっくりして鏡、叩き割っちゃった。だってさあ、ここは王子様とか映すところじゃないの。なんであたしが映るの。そっかそっか、それが鏡の機能だからかあ。でもごめんね、仕事を果たしてくれたのに、もう割っちゃった。破片を拾い上げたら血を流してしまうかもしれないから、でもいま箒で掃く気にもなれないから、とりあえず大きめの破片をもう一度覗きこんでみた。ねえ、もう一度だけチャンスを上げる。鏡の残骸よ鏡の残骸、カワイイカワイイ少女であるあたしをいちばん愛してるひとの姿を見せて。


鏡に映ったのは今日の仕事を終えてようやく深夜に帰ってきたくたびれた私の顔だった。そうだね、カワイイカワイイって自分に言い聞かせて自我を保っていたような可哀相な少女のことを、私が愛しているのは、確かなことだ。鏡は嘘をつかないから参るなあ。もう本当にご名答、その通り。私、いつまでも、あの頃の自分を愛してしまっているようで、どうにも仕方ないなあ。そんなことより明日も仕事だから眠らなくちゃ。ああ、その前に化粧を落としたりしないといけないな、面倒くさいな。でもシャワー、浴びに行こう。


やっとベッドになだれ込んだ君は疲弊しきっているね、今日も一日お疲れ様。ところで、どうやら気づいていないみたいだけれど、君、未だに眠るときには丸くなるんだよ。胎内回帰願望かなんて尋ねたら、きっと鼻で笑うんだろうな。あの頃のカワイイ少女みたいにさ。