惰眠からの脱却、瞼を開けたらもう外が薄暗くなっていて驚いた。ぬるま湯のようになったシーツから這い出て私は一度脱いだブラウスに腕を通す。なんだか性的な夢を見たような気がするのだけれど、記憶が定かでない。先日の余韻がちらついたのかもしれない。…

ののこちゃんがピアノを弾いてはいるが、きりくんは外の雨に気をとられていた。少しばかりずれている彼は、でもののこちゃんのピアノを知覚する音感は持っている。 「きりくんリクエストのショパンじゃないの」 「本当はドビュッシーのほうが好きなんだ」 「…

カーペットの傷みが急に気になって気になってどうしようもなくなって、突発的に捨ててしまった。剥き出しのフローリングはなぜかざらざらとしていて、このあとの雑巾がけの手間を考えるとうんざりしてしにたくなったり、した。 やれやれ。 雑巾をかけてもざ…

人間誰しも得意技ってものがあると思う。 英語が達者だとか漢検準一級持ちだとか、綺麗な姿勢で歩くことができるとか、おいしそうに林檎を齧るなんてのもそう。 林檎選びからはじまって、その磨き方、歯形の残し方、しゃくしゃくという音の立て方、匂いを届…

- 唯一の真実、名前言ってみて。忘れたなんて、そんな言い訳、 - 汚いものならもういっぱい見たからそろそろ綺麗なものを見せて - 真赤なリップを噛めば鉄の味「貧血気味なの」女々しい嘘を - 嘘を吐くその口元にくらりする だあれも知らない嘘を頂戴 - 名前…

やあディドル、だましや屋さん！ ねこがフィドル、バイオリン弾きゃ、 うしがジャンプ、月とびこえて、 こいぬはそれみて笑ったよ それでもって、 お皿はスプーンと駆け落ちしたのさ。 （むずかしいなあ、「jumped over the moon」で「暴騰する」って意味な…

ソロモン・グランディはね、 月曜に生誕してね、 火曜に受洗してね、 水曜に結婚してね、 木曜に病気してね、 金曜に悪化してね、 土曜に死去してね、 日曜に埋葬された。 これでおしまい、 ソロモン・グランディはね。 ◆ Solomon Grundy, Born on a Monday,…

月曜うまれの子は色白びじんで、 火曜うまれの子は恵みでいっぱい。 水曜うまれの子は苦労だらけで、 木曜うまれの子は遠ざかる。 金曜うまれの子は惚れっぽくて、 土曜うまれの子は生きるために頑張るの。 そして安息日うまれの子はね、美しく健康で幸福、…

バラはあかいわ、 スミレはあおいの、 シュガーはあまくて、 あなたもそんなよ。 ◆ Roses are red, Violets are blue, Sugar is sweet And so are you.

泣きながらあたしは五線譜を探し求めていた。 探し求める、なんていうと五線譜中毒か何かみたいだが、本当はその逆。 あたしは五線譜が嫌いだ、どうしようもなく嫌いなのだ。 五線譜を見るといやな音を思い出して眩暈がする。 ずっと理由がわからなくてくら…

- 君は言ったんだ「死にたいな」、ねえほんとうに死にたいの？ 鼻で笑うほど切り離されてないし かといって絶望するほど癒着できてないし。選挙権ありません 世論調査うけたことありませんだからそこにあたしはいないなのにあたしはそこのなか そう思いなが…

あのこはいつも暇だから、手をぱくぱくさせるのです。 開いたり閉じたり、 閉じたり開いたり。 いつ見てもそのてのひらはからっぽです。 ある日、ある人がそのことに気付いて、 あのこの手にそっと、大きな氷を握らせてあげました。 あのこはとても喜んで、…

息苦しいから生き苦しいのか、 生き苦しいから息苦しいのか。 卵と鶏のようなもの、 どっちが先だったのか思い出せないのです。

「ピックは73ミリがいいな、ぺらぺらなのは飛んでっちゃうし、分厚いのは弦に負けちゃうし」って言いながら、君はエフ・サス・フォーをじゃらりする。 そういえばこの前買ったアルバムはこのコードからはじまるんだったっけ、でも上手にそのイントロが思い出…

甘やかな嘘に満ちてゆく そんな空気にふたりで酔って 私は間違えたりなんかしない なんてその発想が既に間違い 絡め盗られる指先 とられる とらわれる 嘘

ゆるやかに坂を滑り落ちてゆく、こんがらがっている 滑り落ちている、とはいっても決してマイナスではないのだ、同時にスピードは加速 まっすぐ、 飛翔 もつれ合って、 卑小 矮小 目に見えないぐらい小さくなっていく きらきら光る金平糖のようだったよ、と…

泣き虫に効く目薬と、嘘吐き予防のうがい薬はありますか？あいにく、しかし真実を聞かずに済ませる耳栓なら先週入荷いたしましたよ。

がらりとベッドの下からマニキュアボックスを引っ張りだす。そういえばもう前に爪を塗ったときから２週間も経っているんでした。こんな風に私のお洒落はいつも爪が甘い。お洒落さんといわれることを一通りやってはみるけれど、同じようにお洒落の一貫で鬱も…

ごろりと寝転んで「ごめんなさい」と君は言った。 「ごめんなさい、でもわたし、あなたが嫌いなの。心の底から嫌いなの」それからばつが悪そうに口元だけで笑って、「真顔でごめんね、冗談じゃなくてごめん」。 「気にしないでくれ、君が吸う煙草は重くてど…